今日から数日間かけて、The Economist誌11月14日号に掲載されたデリバティブの説明記事を紹介します。そもそもデリバティブとはどんなものなのか、といった基本的なことから始まり、その歴史、現在の議論の内容など多岐に渡った内容のようです。最近このブログでもデリバティブの規制に関する記事を多く載せていますが、それらの理解を深めるためにも、この記事をしっかり読んでおくことは有用だと思います。
今日紹介する部分では、デリバティブは、先物、オプション、先渡し、スワップといった形式があり、原資産はほとんどどんな資産でもよい、とその概要を説明しています。その上で、事業会社が自ら負っているリスクを他に移すためのものであるとしています。有用なものでありながら、過去に起きた金融危機の中核に存在したことが何度もあり、その度に規制強化の動きが起きてきています。
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Derivatives – Over the counter, out of sight
デリバティブ − 店頭取引、視界不良
デリバティブは非常に有用なものであり、また複雑なものでもある。誤って利用されたり暗黙の助成が行われたりすると危険なものにもなる。規制当局がつぶさに監視しているのも最もだ
1958年にアメリカの玉ねぎ農民が、彼らの作物の価格の変動性の高さに関して投機家を非難し、ジェラルド・フォードという名前のミシガン州出身の議員に玉ねぎの先物取引を禁止するように働きかけた。大統領になる予定の人物の後ろ盾を得て、農民たちの思いはかなった。玉ねぎの先物はそれ以来禁止されたままでいる。
先物は、決められた価格で、決められた日に何かを取引する契約のことだ。これはおそらくデリバティブの中では最も単純な例だ。その価値はコモディティをはじめとする様々な資産の価格から「派生して」いる。デリバティブは、誰かが多額の損失をこうむる度に、中傷され続けている。1990年代には、オレンジ州やプロクター・ギャンブルが大金を失った。エンロンの失敗の中核にも存在した。そして2008年9月には、巨大な保険会社、アメリカン・インシュランス・グループ(AIG)をひざまずかせた。同社は、債務者が破綻することに対して債権者に補償を与える類のデリバティブ、クレジット・デフォルト・スワップ(CDSS)を好み、少なくとも4000億ドルに上る様々な事業法人のローンを保証するに至った。その中にはリーマン・ブラザースに対するものも含まれていた。アメリカ政府はAIGを崩壊から救うために1800億ドルをしぶしぶ支払った。
大きな災害が起きるたびにデリバティブに対する規制に対する要望が持ち出される。ノーベル経済学賞の受賞者、ジョセフ・スティグリッツは、世界中の大手銀行によるデリバティブの利用は禁止されるべきだと、今年になって発言している。しかし、デリバティブには擁護者もいる。注意深く利用すれば、リスク管理のためのすばらしい道具となる。不可欠だと言う人さえいる。別のノーベル賞受賞者、マイロン・ショールズは、禁止することは技術革新反対者のような反応で、金融市場を数十年後戻りさせるものだと語っている。
昨年あたりに起きた破壊的な出来事のために、アメリカとヨーロッパの立法者はデリバティブ市場に対して1970年代以来最大の大変革をまさにもたらそうとしている。世界中の最大手銀行にとっては、数十億ドルが危険にさらされている。納税者にとっても危険は同じぐらい高い。
デリバティブは多くの形で提供される。先物以外に、オプション(あらかじめ決められた価格で購入もしくは売却する権利(しかし義務ではない))、先渡し(先物によく似たものであるが、取引所で取引されていない)、スワップ(例えば変動金利を固定金利の支払いに変える様に、ある種類の義務を別のものと交換するもの)がある。契約両当事者がリスクを交換することを望み、価格が折り合えば、コモディティ、通貨、株式、債券といったほとんどどんなものでも原資産になりうる。デリバティブはまた、レバレッジを作り出す。契約時に支払いを行うことで契約は締結されるが、その金額は生じる可能性のある収益もしくは損失のほんの一部である。
一般的に、企業はデリバティブを利用して、他の企業に対してリスクを移そうとする。リスクを受け入れることを進んで行う銀行が主な相手先だ。燃料費を危惧する航空会社は請求金額に上限を設けたり固定したりすることができる。航空会社に対する信用エクスポージャーを心配する銀行は、他の銀行に対して実際のローンを販売することなくデフォルト・リスクの一部を移すことができる。世界中の上位500社のうちおよそ95%がデリバティブを利用している。デリバティブがなくなることは非常に高くつく可能性がある。「鉄鉱石の市場にデリバティブがなかったら、オーストラリアの供給元と中国の購入者の間の交渉の対立はもっと激しいものになる」とクレディ・スイスのフィリップ・キリコートは語る。今年の初め、リオ・ティント社で交渉の中心的な役割を担っていたスターン・フーは激しい価格交渉の最中に中国で逮捕されている。そして、先物の禁止は玉ねぎの価格の変動をとめることはなかった。
(明日に続く)
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